親の声を頂いて(1)
初代の会長様から、新潟方面の巡教に出るようにというお言葉をいただきました。
会長様のところにご挨拶に出させていただきますと、会長様は「ああ、ご苦労さんだね」とおっしゃってくださって、その後に、「そんなことがあってはいけないけれども、行った先で何か困ったことにであったら、教会の方を向いて、会長さん、会長さんと、僕の名前を三度呼んでごらん。そうすると、困ったことは必ず解決をするよ」
このようなお言葉をいただいて、教会を出発いたしました。
信州の薮原というところで降りまして、今日、おまつりをさせていただくところのご主人がお迎えに来てくださった。
その姿を見ると私もビックリいたしましたが、(雪の中でございますから)木綿の天竺を着て、わらぐつを履いて、お迎えに来てくださいました。
その後をついてお宅にまいりまして、ご挨拶をすませて、神様がお祀りしておられる2階に通していただきまして、ご挨拶が終わると、その日、お供えをさせていただく神饌物(しんせんもの)を見せていただきました。
そのときに思ったことは、一つもお金を出して買ったお供え物はございませんでした。
月に一回のおまつりでございますから、無ければ無いなりに、そこのお家の精一杯の品物をお買いになって、お供えをされるわけでございます。
ですが、お魚は裏の川で捕れたヤマメ。それを囲炉裏であぶったお供えでございました。果物はというと、秋に採れたアケビという果物がお供えになっておりました。
女でございますから、細かいことに気がつきます。
大変な中を、ここのお宅の皆さんは、信仰していてくださるんだなあと分かりました。
夜になりますと、近くに嫁に行った方々が集まってまいりまして、おまつりは無事に終わりまして、休ませていただけるのかなあと思いましたら、ご夫婦が私の前に座りまして、「先生、ちょっとお伺いしたいことがあるんです」とおっしゃった。
私は思わず心の中で、えらいこっちゃなあ…なんぞ難しいことをお尋ねされたらどないしよう…と、こわくてこわくて仕方がないんですねえ。
でも、こわいなんていう顔を見せるわけにはまいりませんので「何でございますか」と申しましたら、
「実は、私どもに、年子で五人ほどの子どもがございますが、長男(小学校六年ぐらい)でたいへん困っているんです」と。
「どんなふうに困ってらっしゃるんですか?」とお尋ねをいたしましたら、
「実は、寝ぼけるんです」と。
毎晩のことでして、まあ子どもが多いので、長男は、父親と母親のお年寄り夫婦と一緒に寝かせているのでございますけれども、両親が夜中にふっと目を覚ますと、もぬけの殻。それが毎日で、朝になって、ふらふらしながら帰って来る。村を歩いて帰って来るんですかね。
はじめは探しましたけれども、毎日のことでございますから、もうみんな探しもしない。けれども心配はしているわけで、どうしたもんでしょう?なんとか助けていただくわけにいかないでしょうかと。
そういうことがない日は、突然、布団の上に起きて座って、大きな声で、家中みんな起こすようなわめき声をあげる。もうほとほと家族がまいっているんですということでございました。
これは大変なことやなあと私は思いまして、出がけに会長様からいただいたお言葉を思い出しまして、
口に出して申しますとおかしく思われますから、心の中で、「会長さん、会長さん、会長さん、お願い致します。たいへん難しいことをお尋ねいただいて、私は難儀をしております。どうか順序がいただきたい」とお願いをしておりましたら、ふっとこう胸の中に浮かんでまいりました。
それは、先祖の通った道。
先祖というても、お互いの前生だと初代の会長様に聞かせていただいておりますが、
「誠に失礼なお話ですが、お宅のご先祖の中に、ごく変わった道を通った方はいらっしゃいませんか?」とお尋ねをいたしました。
もしなかったらどうしようという気持ちで、一生懸命、神様会長様、神様会長様とお願いをしておりますと、「あのことかいなあ?」と言うて、まあ心あたりが一つございますとご主人がおっしゃってくださったんで、もう私はホッといたしまして、「ああそうですか、どういう方ですか?どんな道を通られたんですか?」とお尋ねをしましたところが、このご夫婦の母親のお話でした。
母親は、そこのお家へは二度目の再婚でみえた。
初婚は、村の裕福なお宅に、器量望みでお嫁にもらっていただき、一年ほどして男の子を産んだそうです。まあそこまでは順調にいったそうでございますけれども、そうしているうちに、主人が気が狂って、精神病院に入ってしまいました。
そのご主人は一人息子さんですが、なかなかそういう病気ですから帰って来れない。
親元から、「まだお前は若い。いまなら間に合うから、子どもを置いて帰ってこい」何度もそういうことを言うてまいりました。
嫁に行った先のご両親は、「頼むから、こうやって子どももできたんだから、もし息子が治らないようだったら廃嫡にして養子を迎えるから、どうかひとつ帰らないで、子どものために辛抱してくれ」と、両方の親に、両手をこう引っ張られたようなかたちですね。
結果、そのご婦人は、親元の手を繋いで、婚家先の親の手を振りもぎったわけです。
そうして身上をいただいた主人、生まれた男の子を置いて、帰ってまいりました。
そうこうしているうちに、今のところにお話がございまして、今のところにお嫁に来られたそうですが、そうしているうちに三年ほどたちまして、子どもさんも亡くなり、そのご主人も、病気も治らぬまま出直しをされて、その婚家先は家が絶えたかたちになってしまった。
そのご婦人(母親)はというと、次々と子どもをいただいて、五人のお子さんができて、育ち盛りのいちばん大変なときにコロリと死んでしまった。さらに、そのご主人も出直しをしてしまった。
そういう道が私の家は通ってあるんですと、まあこういうわけですねえ。
「そうですか。寝ぼけて、あなた方を困らせて、夜もおちおち眠れないようなことをしているそのお子さんは、身上をいただいて治らずじまいで、病院で出直したご主人だと思います」こう申し上げたんですね。
「ああそうですか。そういうふうに変わっていくものですかねえ」と。
前生の親が子になり、子が親になりとして、前生の因縁を借金を返していくんだよということを、初代の会長様に聞かせていただいたことがあるんですけれども、ではこれを、どのように皆さんにお話し申し上げて、どのようにお詫びをしていただいて、定めてもらって、このお子さんの寝ぼけ癖を、ご守護いただいたらいいかという問題になるわけでございますが、初代の会長様は、巡教にまいりました私に恥をかかせませんでした。
(2)に続く
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